Beale Cipher - 宝探ししませんか?

akirashibata2005-12-14

本業の物理がちょっと忙しくて、なかなかGNUな生活が出来ないでいるけれども、ちょっと方向転換して今日は今読んでいる本のお話。GNUは、ソフトウェアがいかにシェアされるべきか、という活動だけれども、世界には必死に情報を隠している人たちがいる。どんな国にもスパイ組織っていうのがあって、国家の最高機密を扱ってるわけで、まぁこういうものが自由にシェアされる日は来ない。それどころかこういう情報は世界有数の頭が作り出した暗号を使って厳重に暗号化されて伝達されている。そんなことについて書いた本が、Simon Singhのthe Code Book。最近日本語にも翻訳されたらしい。とりあえず三分の一くらい読んだんだけど、なかなか面白い。暗号の技術的なところはもちろん、それにまつわるいろんなお話、人の生死にかかわるお話、もちろん暗号はそれだけ隠していかないといけない情報だから、その裏には驚くべき話が隠れているのはうなずける。

ところでBeale Cipher。Cypherというのは暗号のこと。Bealeは人の名前。ではこのひとが何をした人か、というのは話すとちょっと長くなる。時は1820年アメリバージニア州のLynchburgというところでワシントンホテルというよくありそうな名前のホテルを営んでいたのはロバートモリスという人だった。1820年の一月、トマスビールさんははじめてこのホテルを訪れ、そこで冬が空ける三月までを過ごす。彼は誰もが好印象を抱く男で、女性には特に人気があったが、自分の過去の話は進んでしなかったらしい。彼が去った二年後の一月、彼は再びワシントンホテルを訪れ、また以前と同じようにそこで冬を過ごす。今回はそこを離れるときに、ホテルのオーナーのモリス氏に鍵のかかった鉄の箱を手渡した。そのときは、大切な書類だから保管して欲しい、とだけしか言わなかったが、後五月九日付けでモリス氏に手紙が届いた。

「この箱の中には私と私の仲間の財産にかかわる大切な書類が入っています。もしも私にもしものことがあって、この箱がなくなるようなことがあれば、その損失は計り知れません。中略。もしもわれわれの一人が今後十年の間に訪れることがなければ、そのときはあなたにその箱を開けていただきたい。それをしていただくのに必要なものは十年後の1832年にあなたのところに届くように手はずをつけてあります」

ということだった。残念なことにその後十年間、誰もモリス氏を訪れることはなかったが、十年経っても手紙は届かなかった。モリス氏は箱をあけることなくその後も大切に保管しつづけたが、更に十数年後の1945年に好奇心にかられて箱を開けることになる。そこには三枚の暗号化された紙と一枚の暗号化されてない手紙が書いてあって、そこにはこう書いてあった。

「モリス氏を訪れる三年前の1817年、ビールと二十九人の仲間はアメリカ大陸横断の旅の真っ只中にいた。西部の広大な平原を狩をしながら進みSanta Feに到達、その近くの小さなメキシコ人の町でその冬を越した。三月には北に向けて出発し、多くのバッファローを追いかけては捕まえた。そしてある日バッファローを追いかけるうちにSanta Feから三百マイルほど北のとあるところでその日の夕食を用意してるときに、仲間の一人が金の入った岩を見つけたのだ。それは間違いなく金で、仲間の間に興奮が走ったのはいうまでもない。」

その手紙にはその後の顛末が更に続いており、つまるところビールはとりあえずしこたま掘り返した金と銀それに途中で交換した宝石をどこかに隠す役を与えられた。(大昔のことだし大量の金だから、なかなかそれ以外にどうしようもない)そしてLynchburg近くに適当と思われる洞穴を見つけてそこにそれを隠し、そうしてその冬にモリス氏の経営するワシントンホテルを初めておとずれた、ということだった。二度目にワシントンホテルを訪れた理由もそこには書いてあった。つまりもしも彼らに何かのことがあって、これらの財宝が永遠に彼ら、もしくは彼らの親戚の手の届かない状況になってしまっては困る。もしも信頼できる人物が見つかればその人にそのときの処理をお願いしておいた方がいいのではないだろうか、ということで、1822年にビールは再び訪れたワシントンホテルで、経営者を信頼して箱をたくした、というわけだ。

で、その三枚の暗号、というのが、たとえばここで見られる。実はこの話は随分と有名な話しらしい。というのも、いってしまうけど、この暗号はまだとかれていないんだって!!その後この話がどうやって明るみにでたのか、その他のことはこのサイト、もしくはこの本を読めば分かるけれど、三枚の紙のうち、二枚目だけが運良く解読された。それもアメリカの独立宣言書が暗号鍵として使われている、ということがわかったのはひとえに幸運としかいいようがない。何しろその後百年以上にわたってこの暗号を解こうとした人は数知れず。アマチュアの探検家から本物の暗号技術者まで、実に多くの人が試しては敗れたらしい。グーグルで検索しても山ほどでてくる。

さて、問題は、宝探しに出かけますか?ということになるけれど(笑)。宝探しの前に暗号を解かなくてはいけない。この暗号が出版されたときにそれを手伝った人物はもちろん自分でも随分頑張って、このひとこそが二枚目の暗号を解いた人物なんだけど、その人が最後に寄せた文章がなかなか素敵だ。

Before giving the papers to the public, I would say a word to those who may take an interest in them, and give them a little advice, acquired by bitter experience. It is, to devote only such time as can be spared from your legitimate business to the task, and if you can spare no time, let the matter alone. ... Again, never, as I have done, sacrifice your own and your family's interests to what may prove an illusion; but, as I have already said, when your day's work is done, and you are comfortably seated by your good fire, a short time devoted to the subject can injure no one, and may bring its reward.

訳すと、こんな感じ

この書類を一般に公開するにあたり、私はこれに関心を寄せるであろう多くの人に言っておきたいことがある。それは私の多少の経験から産まれたアドバイスでもあるから。それは、あなたの普段の生活の中に自然にある余暇以上のものをこれに費やすべきではない、ということだ。もしそういう時間がないのであれば、この問題には触れるべきではないのだ。略。私がそうしてしまったように、あなたが自分とあなたの家族の貴重な時間をこの幻想に費やすようなことをしてはいけない。しかしながら、先ほども述べたように、一日の仕事が終わったあとに暖かい暖炉の前で心休める短いひと時をこれに費やすのであれば、それは誰を傷つけるものでもなく、そして報われるものであるかもしれない。

ところで暗号の解読は、そのほとんどが一枚目に費やされている。というのも解読された二枚目の文章によると一枚目が金銀の正確な隠し場所、三枚目が、親戚その他への振り分けの内訳になっているからで、お宝ハンターの注目は必然的に一枚目に行くということ。で、多分面白いと思うのは三枚目の解読じゃないだろうか。もちろん金銀はいいけれど、お金なんて使っちゃったら終わりだ。それよりも三枚目に記されている内容はビール氏本人とその周りの人たちの関係を示しているに違いない。とすればきっと本当に価値のあるのは三枚目の方じゃないか、と思うのが素敵な考え方。そして何よりも、三枚目には一枚目ほどの努力がつぎ込まれてない分、やってみたら案外出来た、なんてことにもなりかねない。でも一枚目はともかくとしてなんで三枚目が暗号化されてるんだろう?そこのところがよくわからない。ちなみに二枚目の内容というのはたいしたことがなくて、一枚目と三枚目の目的、隠された財宝の金額、そしてどんな箱に入っているのか、とかそういうこと。もちろんこの話がすべて作り物だ、って主張する人もいる…。